シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」では、ジュエリー制作に必要な貴金属の特性を勉強していきます。
全5回をご覧頂くと、より貴金属の魅力を知る事ができますので、ぜひ最後までご覧下さい。
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
第1回「比重とは?」
第2回「融点と地金の溶解」
第3回「融点とろう付け」
第4回「硬さ(ビッカーズ硬度)」
第5回「熱処理と加工硬化」
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
前回の記事「硬さ(ビッカース硬度)」では、
貴金属の”硬さ”について解説致しました。
最終回は、
「熱処理と加工硬化」
についてです。
熱処理とは、金属に加熱と冷却を加えて、
・強さ
・硬さ
・粘り
・耐衝撃性
・耐摩耗性
など、材料の性質を変える処理の事ですが、かなり専門的な分野になりますので、この記事では「ジュエリー制作」に特化して解説してまいります。
ジュエリー制作で覚えておきたい熱処理は、
・焼きなまし
・時効硬化
です。
これらは、ジュエリー制作において必須の知識になりますので、しっかり理解しておきましょう。
また、加工硬化については、前回の記事「硬さ(ビッカース硬度)」で簡単に説明致しましたが、熱処理と合わせて必須で理解すべきことですので、合わせてご確認ください。
下記の記事では、ジュエリーアクセサリーの作り方について3つの基本的な方法を解説していますので合わせてご覧ください。⇒「ジュエリーやアクセサリーを制作する3つの基本的な技法」を見てみる
熱処理① 焼きなまし
まずはじめに「焼きなまし」について解説してまいります。
「焼きなまし」とは?
地金の硬さと加工硬化について、前回の記事「硬さ(ビッカース硬度)」で解説致しましたが、硬くなった貴金属は、そのままの状態では、曲げて成形することはできません。
もし、無理な力で曲げようとしたり、ローラーにかけて無理に伸ばそうとすると、
地金にひび割れが生じることもあります。
硬くなった地金を、柔らかく加工しやすくするためには
「焼きなまし (Annealing)」
と呼ばれる熱処理を行います。
(「焼鈍(しょうどん)」や、単に「なまし」と呼ぶ場合もある)
焼きなましを行う事によって、
素材を柔らかく加工しやすくできます。
↓シルバー焼き鈍しのイメージ
素材で異なる「焼きなまし」
焼きなましの基本は
「決められた温度まで加熱してから冷やす」
です。
ところが、素材によって
・何℃まで加熱するのか
・どのように冷やすのか
が異なります。
また、貴金属は
・シルバー
・ゴールド
・プラチナ
とあり、
さらに純度や割金(わりがね)によって、素材がたくさんあります。
そのため、熱処理については、作家や職人さんによって意見が分かれる場合もありますので、ここでは、一般的な焼きなまし方法について解説していきます。
シルバーとゴールド
硬くなりすぎたシルバーとゴールドの合金を焼きなます際には、
ガスバーナーで地金全体を大きな炎で熱した後に水に入れます (急冷)
プラチナ
プラチナ合金は通常、 バーナーで地金全体を熱した後、
そのまま放置 (徐冷) します。
ただし、水で急冷してもそれほど硬さに違いはありません。
素材 | 焼きなまし |
---|---|
シルバー | 急冷(水に入れる) |
ゴールド | 急冷(水に入れる) |
プラチナ | 通常は空冷(放置する) |
下記の記事では、シルバーや18金の焼鈍しについて詳しく解説していますので合わせてご覧ください⇒「シルバーや18金の焼鈍しと時効硬化及び加工硬化」について見てみる
熱処理② 時効硬化
熱処理の現象のひとつに
「時効硬化」があります。
(「析出硬化:せきしゅつこうか」ともいう)
「時効硬化」とは、シルバー925やK18などの合金を、
適当な温度で放置しておくと硬くなる現象です。
例えば、シルバーやゴールドを焼きなました状態から放置すると、
時効硬化が起こり、硬くなります。
特にゴールドは、ある一定の温度で放置すると脆さも加わり、
加工が困難になりますので要注意です。
また、シルバー925は200℃〜300℃(250℃前後)で加熱すると非常に固くなります。
これは、
硬さが必要な製品(ピアスやフリーサイズの指輪など)
を作るうえで、非常に役に立ちますので覚えておきましょう。
有料メンバーの方は、ナレッジベース「各種合金の時効硬化」も合わせてご覧下さい。温度や詳しい時間などを解説しています。⇒ナレッジベース「各種合金の時効硬化」を見てみる
加工硬化
「加工硬化」とは、地金を叩いたり、曲げたり、磨きヘラで擦ったりといった「加工」を加えると、
地金が締まって硬くなり、加工しにくくなる性質です。
シルバ一、 ゴールド、プラチナなどのジュエリー素材にもこの性質があります。
ここでは、具体的な「加工硬化」の例をご紹介致します。
加工硬化の例「ローラー」
特に大きな力が加わるのは、ローラーを使って
地金を延ばしたり、薄くしたりする「地金作り」の工程です。
地金を何回もローラーで引くと、ビッカース硬度の低いプラチナ合金やシルバー合金でも、
簡単には曲がらない程の硬さになります。
なお、もともとビッカース硬度が高い18金は加工硬化の傾向がもっとも強く現われます。
加工硬化の例「手作り加工」
加工硬化は
「手作り加工」する時にも起こります。
例えば、
・ヤットコで曲げる
・金槌で叩く
・ 線引板で線を引く
・磨きヘラで擦る
といった力を加えると、
加工硬化が起こり、地金が硬くなります。
貴金属の硬さについては、前回の記事「貴金属の特性を学ぶ”硬さ(ビッカース硬度)”」をご覧ください。⇒「貴金属の特性を学ぶ”硬さ(ビッカース硬度)”」を見てみる
焼きなましと硬化処理を適切に行う
今回は、シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」第5回「熱処理と加工硬化」を解説致しました。
貴金属のジュエリー制作においては
「焼きなまし」を、加工途中で何度も行います。
特に18金の場合は「加工硬化」によって著しく硬くなりますので、
焼き鈍しを頻繁に行なうことが大切です。
今回のシリーズ記事を参考にして頂き、貴金属への理解を深めて頂ければ幸いです。
下記ページは、初心者~中級者に向けた「ジュエリー制作のロードマップ」です。どこから始めたらいいかわからない方はぜひチェックしてみて下さい。⇒「ジュエリー制作のロードマップ」を見てみる
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」では、ジュエリー制作に必要な貴金属の特性を勉強していきます。
全5回をご覧頂くと、より貴金属の魅力を知る事ができますので、ぜひ最後までご覧下さい。
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
第1回「比重とは?」
第2回「融点と地金の溶解」
第3回「融点とろう付け」
第4回「硬さ(ビッカーズ硬度)」
第5回「熱処理と加工硬化」
参考文献