シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」では、ジュエリー制作に必要な貴金属の特性を勉強していきます。
全5回をご覧頂くと、より貴金属の魅力を知る事ができますので、ぜひ最後までご覧下さい。
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
第1回「比重とは?」
第2回「融点と地金の溶解」
第3回「融点とろう付け」
第4回「硬さ(ビッカーズ硬度)」
第5回「熱処理と加工硬化」
第1回目の記事では「比重とは?」をお届けします。
ジュエリー制作では、
貴金属の「比重」をきちんと理解しておく必要があります。
例えば、まったく同じデザインでも、素材がシルバーからプラチナに変わった場合、
重量は約2倍になるため、
シルバーの重量で原材料費を見積もると大変ことになります。
また、比重を知る事で、目の前にある作品を、他の素材で制作した場合の重量が計算で見積もれます。
例えばワックスモデリングで作品を制作した場合、実際の貴金属での仕上がり重量が計算で見積もれるようになりますし、シルバーで作った作品をプラチナで制作した場合のおよその原材料費も計算で見積もる事ができます。
このように「比重」を理解する事は、ジュエリー制作を行う私たちにとって非常に大切です。
そこで今回は、比重について詳しく解説してまいります。
下記の記事では、ジュエリーアクセサリーの作り方について3つの基本的な方法を解説していますので合わせてご覧ください。⇒「ジュエリーやアクセサリーを制作する3つの基本的な技法」を見てみる
比重とは
「比重」をネットで調べると、
ある物質の密度(単位体積当たり質量)と、
基準となる標準物質の密度との比
となっています。
わかりやすく言うと「比重」とは、
物の「重さ」と「大きさ」の関係を表す言葉です。
これはどういうことかというと、
まったく同じ大きさの物であっても、その中身がどれだけ詰まっているか、つまり「重さ」がどれだけあるかを示しています。
例えば、まったく同じ大きさ、同じ形のスポンジと石があった場合、スポンジは軽く、石は重いです。
これは、石の方が中身が詰まっているからです。
つまり、石の「比重」はスポンジよりも大きいということになります。
水を基準とする
貴金属など固体の「比重」は、水を基準とします。
水の比重を「1」として、これを基準に他の物の比重を比べます。
水より重いものは比重が1よりも大きく、
水より軽いものは比重が1よりも小さくなります。
例えば、木のブロックを水に浮かべると、水の上に浮きます。
これは、木の比重が水よりも軽いからです。
逆に、石を水に入れると沈んでしまいます。
これは、石の比重が水よりも重いからです。
このように「比重」は、物がどれだけ重いか、または軽いかを知るために必要です。
貴金属の比重
貴金属の比重は次のようになります。
貴金属 | 素材 | 比重 |
---|---|---|
シルバー | 純銀(サラ) | 10.5 |
950銀 | 10.4 | |
925銀 | 10.4 | |
900銀 | 10.3 | |
ゴールド | 純金(ヤキ) | 19.3 |
K18 (5分割) | 15.4 | |
プラチナ | 純プラチナ | 21.4 |
Pt950 (パラ割) | 20.6 | |
Pt900 (パラ割) | 19.9 | |
Pt850(パラ100、 銅50) | 19.2 |
※地金メーカーによって多少異なります。
全貴金属中で最も比重が小さいのはシルバーです。
最も大きいのはプラチナで、全く同じ形や大きさであっても、
シルバーの約2倍重いという事になります。
加工を行う際には、比重を気にする必要はありませんが、デザインを考える際には注意が必要です。
下記の記事では、「貴金属」について詳しく解説していますのであわせてご覧ください。⇒「貴金属とは?シルバー・ゴールド・プラチナ・白金族について知る!」を見てみる
比重の活用例
「比重」を理解すると、ジュエリー制作のいろんな場面で役立ちます。
ここでは、比重を活用した簡単な計算例を解説します。
体積から重量を計算する
対象物の体積が求められれば、比重をかけて重量を計算する事ができます。
板や角線
板や角線の場合は、次のような計算式になります。
縦(長さ) × 横(幅) × 厚み × 比重 ÷ 1000
例えば、シルバー925の板の角線の場合は次のようになります。
長さ60mm × 幅3mm × 厚み1.5mm × 比重10.4 ÷ 1000 = 約2.8g
板以外の、丸線や甲丸線、丸板も含めた各種計算方法について、下記の記事でまとめてありますのであわせてご覧ください。⇒「貴金属地金の重量計算方法テンプレートまとめ」を見てみる
ワックスから貴金属重量を計算する
ワックスモデリングでは、ワックスの重量がわかれば、貴金属でのおよその仕上がり重量が見積もれます。(ワックスの比重は 1です)
シルバー925の場合
シルバー925で鋳造したい場合の計算式は次のようになります。
シルバーの重量 = ワックスの質量 × シルバーの比重
例えば、ワックスの重量が1gだった場合、
ワックス1g × シルバーの比重10.4 = 約10.4g
となります。
K18(5分割)
K18(5分割)で鋳造したい場合の計算式は次のようになります。
K18の重量 = ワックスの質量 × K18の比重
例えば、ワックスの重量が1gだった場合、
ワックス1g × K18の比重15.4 = 約15.4g
となります。
鋳造の場合、実際には減りが数パーセント、湯道(スプルー)分も発生しますので、それらも加えて見積もる必要があります。
ロストワックス製法によるジュエリー制作については、下記の記事をご覧ください。⇒「ロストワックスによるジュエリー制作の全工程」を見てみる
真鍮から貴金属の重量を計算する
高価な貴金属で制作する前に、真鍮で施策品を作成する事で、実際に貴金属で制作した際の重量を計算する事ができます。(真鍮の比重は約8.5)
シルバー925の場合
シルバー925の場合の計算式は次のようになります。
シルバーの重量 = 真鍮の重量 × (シルバーの比重 / 真鍮の比重)
例えば、真鍮の指輪が2gだった場合、
真鍮2g × (シルバーの比重10.4 / 真鍮の比重8.5) = 約2.5g
となります。
つまり、真鍮の重量に約1.25倍かけてあげれば良いという事になります。
K18(5分割の場合)
K18(5分割)の場合、計算式は次のようになります。
K18(5分割)の重量 = 真鍮の重量 × (K18の比重 / 真鍮の比重)
例えば、真鍮の指輪が2gだった場合、
真鍮2g × (K18の比重15.4 / 真鍮の比重8.5) = 約3.6g
となります。
つまり、真鍮の重量に約1.8倍かけてあげれば良いという事になります。
金銀・プラチナ、真鍮や銅、鉄も含めて、ジュエリー制作にかかわる地金素材の比重や融点・成分などをまとめました。ブックマークしておくと便利です⇒「地金素材まとめデータベース」を見てみる
貴金属の特性「比重」まとめ
今回は、貴金属の特性として「比重」について解説しました。
比重を理解する事は、限りある資源を有効に活用する事にも繋がり、制作のコストも下げることができます。
今回の記事を参考にして頂き、比重についての理解を深めましょう。
下記ページは、初心者~中級者に向けた「ジュエリー制作のロードマップ」です。どこから始めたらいいかわからない方はぜひチェックしてみて下さい。⇒「ジュエリー制作のロードマップ」を見てみる
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」では、ジュエリー制作に必要な貴金属の特性を勉強していきます。
全5回をご覧頂くと、より貴金属の魅力を知る事ができますので、ぜひ最後までご覧下さい。
シリーズ「貴金属の特性を学ぶ」
第1回「比重とは?」
第2回「融点と地金の溶解」
第3回「融点とろう付け」
第4回「硬さ(ビッカーズ硬度)」
第5回「熱処理と加工硬化」
参考文献