「彫金(ちょうきん)」という言葉は、現代において、
ジュエリー制作技法の総称のように使われています。
しかし、昔ながらの職人さんの間では「彫金」は文字通り、
「彫り」を生業としている職人さんのことです。
今回は「彫金」について、その特徴を深掘りしていきたいと思います。
彫金とは
現代において「彫金(ちょうきん)」は、ジュエリー制作の総称のように使われていますが、本来は下記3つの金属工芸技法のひとつになります。
彫金
「彫金(ちょうきん)」とは、鏨(タガネ)と呼ばれる、金属を彫る道具で、貴金属や金属の材料に”彫刻”をするのが金属工芸技法です。
鍛金
「鍛金(たんきん)」とは、金属を熱して叩き出して形を作る技法の事を指します。
いわゆる鍛冶屋さんや刀鍛冶に代表される金属工芸技法です。
鋳金
「鋳金(ちゅうきん)」とは、作りたい形の「鋳型(いがた)」を作り、溶けた金属を流して鋳造(ちゅうぞう)し、目的となる形を製造する金属工芸技法です。
彫金の歴史
金属工芸技法の中でも彫金は長い歴史があり、今から約1500年前、古墳時代の終わり頃から定着してきたと考えられています。
ここでは、彫金の歴史についてご紹介します。
彫金のはじまり
出土した当時の遺物には、
- 帽子
- 指輪
- 簪(かんざし)
- 馬具
などに、今も受け継がれている「毛彫り」「透かし彫り」などの基本的な技法によって装飾が施されています。
刀剣や武具への装飾
今から約900年前の平安時代後期。
この時代の武士が使用する刀剣や刀装具、武具の装飾に、彫金の技術が施されるようになります。
彫金技術の完成
今ら約400年前の江戸時代になると、デザイン性に富んだ刀剣へと変化し、現代にも受け継がれている鏨(タガネ)による細かな彫金技術が完成したと言われています。
その繊細で美しい技術は、やがて武士から町民の間にも広がっていき、簪(かんざし)や帯留め、煙管(きせる)などにも転用され、広く利用されました。
彫金と錺と飾りの関係
ここまで説明してきた通り、「彫金」は本来、貴金属や金属の材料に”彫刻”をする金属工芸技法です。
「彫金」という言葉を調べていると
「錺(かざり)」という言葉も目につきます。
また「飾り(かざり)」という言葉が、「錺」と同じ意味として取り上げられている場合もあります。
そこで私は、
彫金と錺と飾りは、どういった関係にあるか
詳しく調べました。
諸説あると思いますが、私の見解も含めて解説したいと思います。
錺とは
まず「錺」とは、神社や寺院・城など、日本風建築に用いられる装飾用の金物や、襖(ふすま)の引手金、お神輿のてっぺんに鎮座する鳳凰像などの金物を指します。
これら錺道具を作る職人さんを、
「錺(かざり)職人」
と呼びます。
仏教が普及し、寺が多く建てられた当時、金具や仏具などを飾ったのが錺金具です。
装身具というよりは、
建築物の装飾品を制作する職人さんが「錺職人」という事になります
飾りとは
次に「飾り」とは、簪(かんざし)や帯留めなどの装身具や装飾品の事を指し、これらの道具を作る職人を
「飾り(かざり)職人」
と呼びます。
「錺職人」が、建築物の金属製の装飾品を制作する職人なのに対して、
「飾り職人」は、建築物というよりは、装身具を制作する職人です。
「飾り師」や「飾り屋」とも言われ、時代劇「必殺仕事人」に登場する、「飾り職人の秀」が、代表的な飾り職人のイメージになります。
また、取り扱う素材は多岐にわたり、貴金属や金属のみならず、皮素材や木材なども扱います。
現在の、ジュエリーアクセサリーに最も近い存在になります。
なお、広義の意味で「飾り」は、正月飾りなども含まれます。
彫金と錺と飾りについて
まとめると、彫金と錺と飾りとは次のようになります。
彫金
- 主に金属に細かい装飾を施す技術
- その仕事を行う職人を「彫金職人」という
錺
- 神社や寺院、城などの建築に使用される金属飾り
- 錺を作る職人を「錺職人」という
飾り
- 簪(かんざし)や帯留めなどの装身具や装飾品の事
- 飾りを作る職人を「飾り職人」という
彫金技法の種類
「彫金」に関係する「錺」「飾り」についても解説してまいりましたが、
現代における「彫金」を整理してみると、
- ジュエリー制作技法の総称
- 彫刻のように装飾を施す専門技法
の、両方で使われているという事になります。
ここでは、「彫金」をジュエリー制作技法の総称だと捉え、彫金技法の種類についてご紹介してまいります。
代表的な彫金技法
- 彫金
- 貴金属加工
- ワックスモデリング
- 鋳造
- 鍛造
- 象嵌
- 七宝
「ジュエリー制作の基本的な3つの技法」でもご紹介していますので、合わせてご覧下さい。
また、「ジュエリー制作ロードマップ」では、彫金の技法を体系的にご紹介しています。
彫金技法について、より深く知りたい方はぜひチェックしてみてください。
彫金
「彫金(ちょうきん)」とは、鏨(タガネ)と呼ばれる、金属を彫る道具で、貴金属や金属の材料に”彫刻”をするのが金属工芸技法です。
貴金属加工
「貴金属加工」とは、貴金属(金・銀・プラチナなど)を加工して、ジュエリーなどの装身具や器類、錺に代表される装飾品等を制作する金属工芸技法です。
ワックスモデリング
「ワックスモデリング」とは、「ワックス(ろうそくのロウのようなもの)」を使用して、ジュエリーの原型を作成し、鋳造(ちゅうぞう)を経て、作品を制作するジュエリー技法です。
ワックスが”ロスト(消失)”することから「ロストワックス製法」「ロストワックス鋳造法」とも言われます。
鋳造
「鋳造(ちゅうぞう)」とは、作りたい作品と同じ形の空洞を持った「鋳型(いがた)」に、溶けた金属を流し、冷やし固めた後に、鋳型を破壊して作品を制作する金属工芸技法です。
鍛造
「鍛造(たんぞう)」とは、金属を叩いたり、プレス等で圧力を加えることによって強度を高めながら、目的の形状に成形する金属工芸技法です。
刀や刃物、武具、金物などの製造方法として、古くから用いられてきた金属工芸技法で、叩く作業を「鍛える」と表現するため「鍛造」と言われます。
象嵌
「象嵌(ぞうがん)」とは、金属の表面に溝を彫り、母材とは異なる材料をはめ込んで模様を表現する工芸技法です。
象嵌は金属だけでなく、木材に象嵌を施す木工象嵌、陶磁器に象嵌を施す施す陶象嵌等もあります。
七宝
「七宝(しっぽう)」とは、主に金属の素地にガラス質の釉薬を焼きつけて模様を表現する技法です。
古今東西、世界各地で同様の技法を見ることができ、英語圏では「enamel(エナメル)」と言われます。
彫金教室について
現代では、ジュエリー制作についてひと通り学べる教室やスクールを
「彫金教室」
と言っています。
また、実際に検索されている単語を見比べてみると
「彫金教室」のほうが多くなっています。
「彫金教室」という言葉は、1979年に創設されたジュエリー専門学校「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」の学校長、水野孝彦さんが、1974年に出版した著書「彫金教室(ヒコ・みづの著)」によって広まったのではないかと私は考えています。
この時代から、彫金教室とは、
ジュエリー制作技法がひと通り学べる教室
というのが定着してきたのではないでしょうか。
日本全国の彫金教室やジュエリースクールは、下記ページでご紹介しています。
また、彫金教室の選び方や探し方についてもご紹介していますので、合わせてご覧下さい。
彫金のまとめ
今回は「彫金」について深掘りして解説してまいりました。
まとめると、現代における彫金とは、
- ジュエリー制作技法の総称
- 彫刻のように装飾を施す専門技法
の、両方で使われています。
彫金の代表的な技法は次の通りです。
彫金の代表的な7つの技法
- ・彫金
- 金属を「鏨(タガネ)」と呼ばれる道具で彫刻する金属工芸技法
- ・貴金属加工
- 金、銀、プラチナなどの貴金属を加工し、ジュエリーや装飾品を制作する技法
- ・ワックスモデリング
- ワックスで原型を作り、鋳造を経て作品を制作する技法「ロストワックス製法」
- ・鋳造
- 鋳型に溶けた金属を流し込て作品を作り出す技法
- ・鍛造
- 金属を叩いたり圧力を加え、強度を高めながら作品を作る技法
- ・象嵌
- 金属表面に異なる材料をはめ込んで模様を表現する工芸技法。
- ・七宝
- 金属の素地にガラス質の釉薬を焼きつけて模様を表現する技法
彫金同様に、装飾に携わる職人には「錺職人」「飾り職人」が存在る事がわかりました。
彫金と錺と飾りの違い
- ・彫金職人
- 主に金属に細かい装飾を施す金属工芸技法を指し、その職人を「彫金職人」という。
- ・錺職人
- 神社や寺院、城などの建築に使用される金属飾りを「錺」と言い、その職人を「錺職人」という。
- ・飾り職人
- 簪(かんざし)や帯留めなどの装身具や装飾品を「飾り」と言い、その職人を「飾り職人」という。
1970年代から、彫金教室という言葉が広まってきたと考えられ、結果的に、彫金は、
「ジュエリー制作技法の総称」
のように捉えられるようになったと考えます。
また、昔ながらの、彫刻のように装飾を施す専門技法という意味で「彫金」と呼ばれる場合もあります。
いっぽうで、一個造り(1点物や原型)や、貴重石の石留め、彫刻等、1つ1つの作業を行う職人さん、複数の工程を1人でこなす職人さんのことを「錺職人」または「飾り職人」と呼ぶこともあるようです。
彫金、錺、飾り
いずれも、日本独特の趣があって素敵な響きです。
日本の文化や趣を尊重しつつ、自身が目指したい職人像や作家像に合わせて、自由に表現し、周囲からも認知されるよう努力を積み重ねていきましょう。