宝石が持っている輝きや魅力を引き出すためには、
カッティングの技術が必要不可欠です。
そして、宝石のクオリティは、カットの良し悪しによって大きく左右されます。
また、ジュエリー制作においては、
宝石のカットをどうやってデザインに活かすか
ということも、より魅力的な作品を制作するうえで欠かせません。
そこで今回は、宝石のカット(カッティング・スタイル)について解説致します。
ぜひ最後までご覧下さい。
下記の記事では、ジュエリー制作に必要な「石留めの種類37種」と、その留め方の概要についてまとめましたので合わせてご覧下さい。⇒「【全37種】石留めの種類と技法」を見てみる
宝石のカットは2種類に大別される
通常、宝石のカッティングスタイルは、大きく分けて2種類に分けられます。
その2種類とは
・ファセットカット
・カボションカット
の2つです。
ファセットカット
ファセットカット (facet cut) とは、何個もの小さな平らな面(ファセット) が連なったカットのことで、主に透明な宝石に用いられる事が多いカッティングスタイルです。
表面から得られる光沢と、内部からの輝きを強調するのに適したカットで、その代表格は、ダイヤモンドに見られる「ブリリアントカット」になります。
カボションカット
カボションカット (cabochon cut) とは、ドーム状にカーブしたカットです。
主に半透明・不透明の石に用いられ、表面に現れる模様や宝石の量感を強調するのに向いたカットになります。
スターやキャッツ・アイなどの光彩効果を出すためにカボションカットにされることもあり、この場合はドームを高く研磨したほうが光条が強く出ます。
カットの例外
ここまで、「ファセットカット」と「カボションカット」の2つをご紹介致しました。
この2つのカットが、原則にはなりますが、
宝石によっては例外的なカットにする場合もあります。
例えば、透明石であっても、「フロー (flaw-カット石の内部や表面の欠陥のこと)」が、著しく多い場合は内部欠陥などを隠し色を強調するためにカボションカットにすることもあります。
また、半透明石や、不透明石でも意外性を求めたりシャープなデザインでまとめるためにファセットカットにすることもあります。
代表的なファセットカット一覧
ここからは、代表的なカッティング・スタイルの一覧をご紹介致します。
まずは、代表的なファセットカットです。
ブリリアントカット
「ブリリアントカット(brilliant Cut)」は、宝石の輝きを引き出すカットの1つで、7つの必須ファセットがあります。
「ブリリアントカット」については、下記の記事で詳しく解説していますので合わせてご覧下さい。⇒ラウンドブリリアントカットと「7つのファセット」を見てみる
ラウンド・ブリリアントカット
18世紀に初頭に考案され、ダイヤモンドの美しさを最も引き出す事ができるとされているのが、「ラウンド・ブリリアントカット」です。
「ブリリアントカット (brilliant cut)」は、ファセットの1個の面の形が三角形あるいは菱形の面で構成されたもので、
・クラウン32面
・パビリオン24面
・テーブル
・キューレット
の、計58面のファセットで構成されています。(キューレットを除くと57面)
下記の記事では、「ダイヤモンドの4Cによる評価と価格との関係」についてまとめてありますので、合わせてご覧下さい。⇒「ダイヤモンドの4Cによる評価と価格について」について見てみる
オーバル・ブリリアントカット
ブリリアントカットの一種で、形状が楕円形のものを「オーバルブリリアントカット」と呼びます。
宝石の種類によって、ファセット数が変わる事がありますが、ダイヤモンドの場合は、通常58面のファセットで構成されており、ダイヤモンド以外は69面で構成されることが多くなります。
楕円の比率で印象が変わり、一般的に人気なのは1:3~1:4となっています。
ブリリアントカットの変形版として「ファンシーシェイプカット」に属します。
ペアシェイプ・ブリリアントカット
「ペアシェイプ・ブリリアントカット(pear-shaped brilliant cut)」は、「ペア(西洋梨)」のような形から名付けられました。
別名「ドロップカット」(ドロップは”雫”の意味)や、「ティアドロップ」とも呼ばれるブリリアントカットの一種です。
ダイヤモンドの場合は、通常58面のファセットで構成されており、ダイヤモンド以外は71面で構成されることが多くなります。
ブリリアントカットの変形版として「ファンシーシェイプカット」に属します。
マーキス・ブリリアントカット
「マーキス・ブリリアントカット(marquise brilliant cut)」は、ボートのような形をしたカットで、ブリリアントカットの変形版として「ファンシーシェイプカット」に属します。
マーキスカットの縦横比は、通常2:1で、通常58面のファセットで構成されておりますが、なかには、輝きが強くなるという理由から、18面体にカットされることもあるようです。
名前の由来は1745年、フランスで初めてバゲット型のパンを考案した女性「ポンパドール夫人」に与えられた「マーキス(侯爵)」の称号からきています。
ハート・ブリリアントカット
「ハート (heart)」の形をしたブリリアントカットです。
名前のとおり、ハートの形のカットです。
ブリリアントカットの変形版として「ファンシーシェイプカット」に属しており、58面または65面にカットされます。
一般的に理想的で人気とされている縦横比は1:1とされています。
プリンセス・カット
「プリンセスカット(Princess Cut)」は、四角い形状のブリリアントカットです。
このカットは1970年代に登場し、特に四隅がシャープであることが必須で、細かくカットされたエッジの際が鮮烈な存在感を放ちます。
ブリリアントカットのルーツ
ブリリアントカットのルーツとも言われているのが、
・オールドマインカット
・オールドヨーロピアンカット
・クッションカット
です。
オールドマイン・カット
「オールドマイン・ブリリアントカット(old mine brilliant cut)」「オールドマイン・カット(old mine cut)」は、現在のブリリアントカットの原型になっていると言われています。
アンティークジュエリーに多く見られ、特徴的なのは、テーブル面からのぞき込むと、中心部分に穴が開いているように見えることです。
これは、ダイヤモンドの底面にあるキューレット面をカットしているためです。
オールドヨーロピアン・カット
ラウンドブリリアントの起源ともされるオールドマインカットがさらに進化した形と言われているのが「オールドヨーロピアンカット(Old EUROPEAN Cut)」です。
現在のラウンドブリリアントカット同様、58面体にカットされています。
クッション・カット
歴史あるオールドマインカットのダイヤモンドを受け継いだ、クラシックなカットが「クッションカット(Cushion Cut)」です。
ふっくらとした優しい丸みを帯びた形が枕を連想させる事から「ピローカット」とも呼ばれており、豊富なファンシーカラーダイヤモンドにも多く採用される宝石のカット形状の一つです。
クラシックな雰囲気があり、人気があります。
下記の記事では、宝石の本物と偽物について詳しく解説していますので合わせてご覧下さい。⇒「宝石の本物と偽物の見分け方」について見てみる
ラウンドカット
最近はあまり見かけなくなりましたが、キュービックジルコニアなどに多く見られるカットです。
ジルコンカット
「ジルコンカット(Zircon Cut)」は、ラウンド ブリリアントカットの下部パビリオンに8つのファセット加えたカットです。
シングルカット
「シングルカット(Single Cut)」は、ラウンドブリリアントカットよりもファセットが少なく、17面で構成されるシンプルなカットです。
ステップカット
「ブリリアントカット」が三角形や菱形のファセットで構成されたカットに対して、四角形の面で構成されたものを「ステップカット (step cut)」 と呼びます。
エメラルド・カット
代表的なステップカットのひとつが「エメラルド・カット (emerald cat) 」です。
エメラルドに対して頻繁に行われたカッティング技法で、破損を防ぐ目的として、四隅の角が削り取られた形になりました。テーブル面が広いため、このカットは宝石の透明度、すなわちクラリティを見事に引き立てるカットと言えます。
オクタゴン・カット
エメラルドカットに似ていますが、下部の段が等間隔ではないという特徴を持つのが「オクタゴン・カット(Octagon Cut)」です。
バケット・カット
長方形にカットされた「バゲットカット(baguettes cut)」はステップカット系の代表格で、その名称は棒状の固焼きフランスパン(フランス語でバゲットと称される)に由来しています。
バゲットカットの宝石が多く使われる場面として、ダイヤモンドなどブリリアントカットの中石(メインストーン)の周囲に配置され、引き立て役として役割を果たしていることも多いカットです。
テーパードバケット・カット
バケットカットの片側がテーパーにカットされたものが「テーパード・バケットカット(tapered baguettes cut)」「テーパー・バケットカット(taper baguettes cut)」です。
こちらも、ブリリアントカットダイヤモンドなどの周囲に留められることが多いカットになります。
スクエア・カット
プリンセスカットと同様、四角いデザインのカットを持つものの、「スクエア・カット(square cut)」が独特なのはシンプルなファセットで構成されているという事です。
キューレットの存在については一貫性がなく、あったりなかったりと様々のようです。
ミックス・カット
上部のクラウン部がブリリアントカット、下部のパビリオン部がステップカットのものをミクスト・カット (mixed cut) またはミックス・カットといいます。
トリリアントカット
「トリリアントカット(Trilliant Cut)」とは、外形が三角形(トリリアント)の形をしたミックスカットです。
トリリオンやトリリアンとも呼ばれています。
バリオンカット
「バリオンカット(Barion Cut)」は、外形が八角形または四角形のミックスカットです。
レイディエント・カット
「レイディエント・カット(radiant Cut)」は、外形が八角形の形をしたミックスカットです。
「バリオンカット」によく似たカットで、様々なバリエーションがあります。
フランダースカット
「フランダースカット(Flanders Cut)」は、外形が八角形の形をしたミックスカットです。
1987年、ベルギーのフランダース地方で開発されたカッティング方法になります。
ローズ カット
一般的に、平らな底面を持ち、24面の三角形で構成されているのが「ローズカット(Rose Cut)」です。
ローズカットの名前の通り、バラのつぼみに形が似ているに由来しています。
下記の記事では、宝石に関する専門用語について、ジュエリー業界における慣用語、取引単位についてまとめましたので合わせてご覧下さい。⇒「宝石の重量単位とジュエリー業界の慣用語や取引単位について」を見てみる
代表的なカボションカット一覧
ここからは、代表的なカボションカットの一覧をご紹介致します。
カボションカットにはドームを高くしたハイ・カボション (high cabochon)、低くしたロー・カボション (low cabochon) と高さによる呼び名があります。
○ハイ・カボション
ドームを高くカットしたもの○ロー・カボション
ドームを低くカットしたもの
なお、カボションカットの石の外形は、円や楕円が中心ですが、それ以外にも四角、長角、マーキーズ、ハート型といろいろなバリエーションがあります。
シングルカボション
石の底が平らなものを「シングルカボション (single cabochon)」と呼びます。
ダブル・カボション
石の底がふくらんだものを「ダブル・カボション (double cabochon) 」と呼びます。
ホロー・カボション
濃い色の石の底面を内側に窪ませて光線の通過を良くする時に用いられる「ホロー・カボション (hollow cabochon) 」というカットもあります。
バフトップ・カット
カボション特有のドーム状の下部がファセットカットになっているのが「バフトップ・カット」です。
主に、透明な宝石のためのカットです。
下記の記事では、宝石の耐久性とモース硬度について解説していますので合わせてご覧下さい。⇒「ジュエリー制作時は要注意!宝石の耐久性とモース硬度について」を見てみる
宝石のカット種類まとめ
今回は、宝石のカットについてご紹介しました。
宝石の種類によって、その魅力を最大限に引き出してくれるカットがあります。
たくさん見て、自分が好きな宝石やカットを見つけてください。
参考文献
下記の記事では、デザインによって異なるジュエリーの仕上げ工程について、その手順を解説していますのでご覧下さい。⇒「デザインによって異なるジュエリーの仕上げ工程」を見てみる