シリーズ「指輪の基本」では、指輪の基本的なデザインとその種類について紹介していきます。
全4回をご覧頂くと、より指輪に対する理解が深まりますで、ぜひ最後までご覧下さい。
第2回「地金と宝石によるデザイン分類」
指輪の歴史は古く、その歴史は、古代エジプト時代までさかのぼります。
そこから数千年もの間、私たちの生活や文化、社会の様相を映しながら、指輪の歴史は、今日まで受け継がれてきました。
今回は、そんな歴史ある指輪に着目して、指輪の基本的なデザインとその種類についてご紹介してまいります。
いろんな分類の方法があると思いますが、このサイトでは、
- 素材やデザインによる分類
- 用途やニーズによる分類
の2つの分類にわけ、記事を2回にわけてお伝えしてまいります。
下記の記事では、日本のジュエリー文化における「指輪」の基本的な構造について、詳しく解説していますので合わせてご覧下さい。⇒「指輪の基本構造と各部名称」を見てみる
素材やデザインによる分類
まずは、素材やデザインによる分類です。
ジュエリーに用いられる素材は大きく分けて「貴金属」と「宝石」ですので、指輪も、
- 貴金属だけのリング「メタルタイプ(地金物)」
- 宝石を用いたリング「宝石タイプ」
の2つに大別できます。
ここからは、それぞれのタイプについて詳しく解説してまいります。
貴金属だけのリング「メタルタイプ(地金物)」
宝石を使用せずに、金や銀、プラチナ等の貴金属だけで製作された指輪を「メタルタイプ」と言います。
「地金物(じがねもの)」と呼ばれる事もあり、通常は1種類の貴金属で作られていますが、「コンビリング」と呼ばれる指輪も市場には多く出回っています。
「コンビリング」とは、例えば、金とプラチナ、または、金と銀の両方を使用して作られた指輪です。
メタルリングの代表的なデザインには、甲丸リングや平打ちリングなどのように、明治時代からずっと伝えられてきたベーシックなデザインから、ファッションリングのように、デザイン性に富んだ指輪まで様々あります。
ここからは、メタルリングの代表的なデザインをご紹介してまいります。
下記の記事では、ジュエリーアクセサリーの作り方について3つの基本的な方法を解説していますので合わせてご覧ください。⇒「ジュエリーやアクセサリーを制作する3つの基本的な技法」を見てみる
甲丸リング
「結婚指輪(マリッジリング) 」として用いられる事が多いのが「甲丸(こうまる)リング」です。
その歴史は、明治中期以降にまで遡り、甲丸の形状から別名「かまぼこリング」や「かまぼこ型リング」などの名称で親しまれてきた指輪になります。
甲丸の形状には、指輪の断面が、ほぼ半円状のものと、やや平らな形状の「平甲丸(ひらこうまる)」と呼ばれるデザインがあります。
指輪の基本とも言える、シンプルな形状で、手作り加工やプレス加工などで作られる事が多いデザインです。
下記の記事では、シルバーで甲丸リングを作る過程を動画を交えて解説していますので合わせてご覧下さい。⇒「基本のシルバー甲丸リングの作り方【動画解説あり】」を見てみる
平打リング
「平打(ひらうち)リング」も、甲丸リング同様、明治時代からある伝統的なデザインです。
甲丸リングと同じように、「結婚指輪(マリッジリング) 」として利用されてきました。
5mm~8mm位のリング幅が一般的で、上から見たときボリューム感があります。
シンプルなデザインが好まれる場合が多い平打rリングですが、大きな表面積を利用して、彫り模様を施したデザインもたくさん存在します。
なお、平打リングのように、指輪の全周の幅が同じものを「バンドタイプ」ともいいます。
甲丸リングと同じように、手作り加工やプレス加工などで製作されます。
月型甲丸リング
甲丸リングをアレンジしたドーム状の指輪が「月型甲丸(つきがたこうまる)リング」です。
指輪の上面、トップ部分に大きくボリュームがあり、横 から見ると、三日月の形に見える事から「月型甲丸(つきがたこうまる)」 と呼ばれるようになりました。
このボリュームを利用して、指輪のトッ プ部分に、後光留めなどの彫り留めで、ダイヤモンドを一個留めるデザインも人気がありました。
月型甲丸リングは、プレス加工では作りにくいため、手作り加工やロストワックスによる鋳造で作ります。
特に、裏抜きしてある月型甲丸リングは、ロス トワックス製法で作るのが一般的となっています。
剣腕リング
断面が三角形(おにぎり型)のようなデザインの指輪が「剣腕(けんうで)リング]です。
シャープな印象で個性的な印象を受けます。
鎬リング
平打リングの角を落とし、指輪の断面が台形のような形になるのが「鎬(しのぎ)リング」です。
「鎬(しのぎ)」とは、日本刀の刀と峰の間の部分(鎬)の形に似ていることに由来しています。
カット・リング
主にマシンメイド(工作機械)で製造される事が多いのが、「カット・リング」です。
甲丸や平打といったのシンプルな指輪の表面に、工作機械で幾何学的な模様パターンを彫ったデザインになります。
カットリングは「結婚指輪(マリッジリング)」として使用される事が多く、古くから人気のあるデザインです。
下記の記事では、マシンメイドの現場を見学した際の様子を紹介していますので合わせてご覧下さい。⇒「機械に宿る職人の思い、マシンメイド・ジュエリー工房レポート」を見てみる
すり出しリング
ヤスリを用いて、様々な形状を表現できるのが「すり出しリング」です。
甲丸リングや、やや厚みのある平打リング等を、ヤスリで削り出したり、指輪を展開した状態を糸鋸でカットしたりして、無限のデザインを表現する事ができます。
「すり出しリング」は、シルバーで作られる事が多く、初心者の人でも手軽に表現できるデザインです。
チェーンリング
リング上部がチェーン状にデザインされた指輪が「チェーンリング」です。
また、機械で編まれた18金等のチェーンを、そのまま指輪状に巻いて、ろう付けしたものもあります。
幅の細いものは、市販のチェーンをそのまま加工して作る事ができますので、手軽に製品とする事ができます。
幅が広いものなどは、ロストワックス製法で作るのが一般的です。
スパイラルリング
「スパイラルリング」 とも言われる指輪は、18金やシルバーの地金を、二重~三重に巻いた、らせん状のデザインの指輪です。
宝石を乗せたデザインもあり、その特徴から、フリーサイズの指輪として使用できます。
3連リング
甲丸状の指輪を、3本重ねて作ったリングが「3連 リング」です。
特に有名なのが、カルティエ社の「トリニティリング」で、イエローゴールド、ピンクゴールド、ホワイ トゴールドの甲丸リングを3本重ねて作ってあります。
3連リングには、他にも、2連や5連などがあります。
コンビリング
メタルタイプの指輪は、通常1種類の地金で作られる事がおおいですが、例えば、18金の指輪の一部に、プラチナをロウ付けしたような指輪を「コンビ・リング」「コンビネーションリング」といいます。
“コンビ” は、「コンビネーション(combination:組合せや配合の意味)」の略です。
ファッションリング
ここまで紹介した指輪以外のメタルリングは、総称して「ファッションリング」と呼びます。
1975年(昭和50年)頃から作られるようになってデザインで、貴金属の価値というよりは、ファッションやデザイン要素から得られる価値を重視した指輪になります。
アパレル同様、ファッションリングには流行があり、今のファッションと調和しているかどうかが、価値を決めるポイントとなります。
甲丸リングや平打リングとは対照的に、動きや曲線・ボリュームといった要素を、デザインとして取り入れられていますので、ロストックス製法による作り方が最も適していると言えます。
下記の記事では「ロストワックス」によるジュエリー制作の全工程をご紹介していますので合わせてご覧下さい。⇒「ロストワックスによるジュエリー制作の全工程」を見てみる
石を用いたリング「宝石タイプ」
ここまでは、宝石を使用せずに、金や銀、プラチナ等の貴金属だけで製作された指輪「メタルタイプ」についてご紹介してまいりました。
ここからは、主に「宝石」を加えた「宝石タイプ」の指輪について、その代表的なデザインをご紹介してまいります。
立爪リング
「ティファニーリング」として有名なのな「立爪リング」です。
従来の宝石リングは、爪、石座、腰、肩などで構成されているデザインが多く見られますが、「立爪」は、爪とリング腕だけで成り立っています。
ダイヤモンド特有の美しさが、最大限に活かされるデザインとして考案されたシンプ ルなフォルムは、装飾を施すだけがデザインではないということを教えてくれています。
婚約指輪(エンゲージリング)の代表格でもある立爪リングは、ダイヤ モンドの側面を見せるために石座は存在せず、ダイヤモンドのガードル部分を、6本の爪でしっかり咬むように留めてあります。
このような、石が一個だけのタイプの指輪を「ソリ テールリング」とも言いますが、「立爪リング」はその代表例と言えます。
下記の記事では、ジュエリー制作に必要な「石留めの種類37種」と、その留め方の概要についてまとめましたので合わせてご覧下さい。⇒「【全37種】石留めの種類と技法」を見てみる
一本腕リング
石が1つだけ留められたソリテールリングのデザインの指輪が「一本腕リング」です。
「ストレート」とも呼ばれ、シンプルで仕事中やプライベートなど、シーンを選ばず身につける事ができます。
また、石に向かって腕が細くなっている指輪は「しぼり腕」と呼ばれ、石が大きく強調されて見える効果があります。
抱き合わせ腕
宝石を抱えているような印象のデザインが「抱き合わせ腕」のリングです。
リング腕が、緩やかなカーブを描き、一個石のソリテールリングの定番デザインとして多く利用されています。
ひねり腕
「抱き合わせ腕」と似ていますが、ひねる方向が石の外側に向かっているのが特徴的なデザインです。
「抱き合わせ腕」が、ややカジュアルな印象に対して、「ひねり腕」は、少しシックでフォーマルな印象になります。
割腕リング
幅のあるリングの中心を2つに割り、そこに宝石を留めたデザインの指輪が「割腕リング」です。
幅が広くなる分、大きな石が留められますので、華やかな印象を与えてくれます。
デラ枠
「デラ枠」とは「デラックス枠」を略したもので、30数年程前からある定番のデザインです。
主に、中石にカラーストーンが留めてあり、石座を補強し装飾を華やかにする「腰」のデコレーションに特徴があります。
原則として、脇石がないのが一般的で、細かい唐草模様や線の表情でまとまっているデザインが多いようです。
「デラ枠」の由来として、従来作られていた色石の指輪は「千本透し」と呼ばれるリングが主流で、そのデザインと比べると、「デラックス (豪華)」に見えたため、「デラ枠(デラックス枠)」と呼ばれるようになりました。
現代は、ジュエリー全体がより華やかになっているため、デラ枠もごく普通に見えることから「並み枠」 と呼ばれることも多いようです。
脇石入りリング(サイドメレ・リング)
宝石タイプの指輪の中でも、中石の両脇にメレダイヤモンド等がセッティングされたデザインが「脇石入りリング(サイドメレ・リング、サイドストーン・リング)」です。
脇石には、メレダイヤモンドが使われる事が多いですが、その理由として、無色透明のダイヤモンドが中石の色(特に色石)を引きたてる効果がある、とされています。
メレダイヤモンドが数個入ることによって、華やかさが増し、受ける印象も大きく変わります。
脇石で使用される、メレダイヤモンドには、ラウンド以外にも、マーキスやテーパードバケットカットのメレ石も多く用いられます。
もちろん、中石にダイヤモンドを使用する事もあります。
取り巻きリング
「取り巻きリング(「ディナーリング」と呼ばれる事もある)」は、中石のまわりをメレダイヤモンドで囲ったデザインの指輪です。
ダイヤモンドや色石を中石として、周りを囲んでいるメレダイヤモンドには、ラウンドやマーキスカットなど、その他のカットのメレ石も使用されることもあります。
「二重取り巻き」は、文字通り、取り巻きが内側と外側の二重になっており、内側にラウンドカットのメ レダイヤモンドを、外側にはテーパーバケットカットなどのメ レダイヤモンドを留めたデザインです。
取り巻き自体の形も、ただ一周並べただけでなく、ウェーブがかっていたり、長めのテーパーバケットで、波打つように取り巻いたデザインの 「バレリーナ」と呼ばれるデザインもあります。
一文字
同じ大きさのダイヤモ ンドが、漢数字の「一」のように横一列に並ぶデザインの指輪が「一文字リング」です。
石の位置が低く、石も埋め込んで留めてあるため、爪のひっかかりが少ないデザインになります。
並べる個数は奇数が原則となっており、5個や7個留めてあるものがあります。
ダイヤモンドの形によって呼び方があり、ラウン ドカットを用いたものを「丸一文字」、 バケットやスクエアカットを留めた指輪を「角一文字」と呼びます。
その他、一文字リングのバリエーションとして、同じ大きさの石を二列に並べた「二文字」や、 中心のラインに比較的大きな石を用いて、両サ イドにメレダイヤモンド等を留めた「三文字」などもあります。
エタニティ・リング
指輪の半分以上に宝石を留めたデザインが「エタニティ」です。
宝石が半分くらいに留められたデザインを「ハーフ・エタニティ」、ぐるり一周留めてあるのが「フル・エタニティ」となります。
V字リング
上から見た時、そのフォルムがV字状に見える指輪を「V字リング」といいます。
石は、V字状に並べて留めてあり、ダイヤモンド以外にも、ルビーやサファイア等の色石を、5個・7個と奇数で留めてあるのが一般的なデザインになります。
同じ大きさの石を使うことが多いデザインですが、 V字のラインを強調するために、中心から両端にかけてグラデーションのように小さくなるよう石を留める事もあります。
マーキスやテーパーバケットカットの石を使う場合は、石を埋め込んで留めるのではなく、線爪などで石留めするのが一般的です。
この場合、腰の部分に、線爪を延長し、その線で処理される事が多くなります。
エンゲージリングなどの場合は、V字の頂点にダイヤモンドを留め、両脇にメレダイヤを留めたり、あるいはシンプルに中石だけのデザインも人気です。
S字リング
アルファベットの「S」字のように、緩やかなウェーブが施されたデザインの指輪です。
リングの腕に動きがあるデザインの指輪は、指をすっきり見せる効果があるとされています。
メレ入りファッションリング
メレ・サイズの小さな色石や、メレダイヤモンドを用いたファッションリングは、総称して「メレ入りファッションリング」といいます。
比較的カジュアルなデザインのものが多く、価格も手ごろな指輪が多いため、ジュエリー好きの女性なら必ず1個は持っているといっていいぐら い普及しているデザインの指輪になります。
たくさんのデザインがあり、プラチナをベースに、メレダイヤモンドをさりげなく使ってシックにまとめた指輪や、ボリュームのある18金の地金の表面に、メレダイヤモンドをぎっしりと埋め込んだ華やかなデザイン、メレ・サイズのエメラルドやルビー、サファイアなど、いくつか単独に用いたものや、色石とダイヤモンドと組み合わせたカラフルな指輪など様々です。
メレの数が多いから価値がある、というわけではなく、デザイン的に、その宝石をどれだけ効果的に使っているかが価値判断のポイントになります。
その他の宝石リング
ここまでご紹介したデザインの他、 「カクテルリング」 と呼ばれる指輪や、2つ以上の指輪を組み合わせた「セッ トリング」などもあります。
カクテルリング
中心となる石がなく、 何個かの石を使った指輪で、特に各色の色石を組み合わせた指輪が「カクテル・リ
ング」です。
カクテルのように、いくつかの石が混じっていることから名付けられました。
セットリング
2個以上の独立した指輪を組み合わせると、ひとつの指輪に見えるのが「セットリング」です。
立爪リングに、V字リングをセットしたものなどが代表的なタ イプで、婚約指輪と結婚指輪の組み合わせとして多く見られます。
下記の記事では、宝石のカット全25種類について、画像付きで詳しく解説していますので合わせてご覧下さい。⇒「【全25種】宝石のカット種類一覧」を見てみる
指輪の基本タイプ「素材やデザインによる分類」まとめ
今回は、指輪の基本タイプとして「素材やデザインによる分類」についてご紹介致しました。
まとめると、素材やデザインによる分類は大きく分けて次の2つになります。
- 貴金属だけのリング「メタルタイプ(地金物)」
- 宝石を用いたリング「宝石タイプ」
-
メタルタイプ(地金物)のデザイン
- 甲丸リング
- 平打リング
- 月型甲丸リング
- 剣腕リング
- 鎬リング
- カット・リング
- すり出しリング
- チェーンリング
- スパイラルリング
- 3連リング
- コンビリング
- ファッションリング
-
宝石タイプのデザイン
- 立爪リング
- 一本腕リング
- 抱き合わせ腕
- ひねり腕
- 割腕リング
- デラ枠
- 脇石入りリング(サイドメレ・リング)
- 取り巻きリング
- 一文字
- エタニティ・リング
- V字リング
- S字リング
- メレ入りファッションリング
- その他の宝石リング
これから作ろうしている指輪がどの分類に当てはまるのか、また、そのデザインにはどんな特徴があるのか知る事で、より一層デザインの幅が広がると思います。
ぜひ参考にしてみて下さい。
「作品や製品のアイデアが浮かばない」という人向けの「製品アイデア発掘マニュアル」を作りましたので、合わせてご覧ください。⇒【テンプレート付き】製品アイデア発掘マニュアル を見てみる
シリーズ【指輪の基本】
シリーズ「指輪の基本」では、指輪の基本的なデザインとその種類について紹介していきます。
全4回をご覧頂くと、より指輪に対する理解が深まりますで、ぜひ最後までご覧下さい。